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04.29.02:55

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  • 04/29/02:55

07.03.05:37

Ich gehe zum Tod

キルスと灰罹の関係が気になる、というお言葉を頂いたので……何かこのナンチャッテ愛増主従の関係が解かり易く説明出来るモンはないかね、と思って過去の小話をサルベージ。
非常に短い上、何ともつまらん話。



 走る。
 息がきれる、それを錯覚と断じる。額から頬を伝い、顎へと滴り流れ落ちる汗を生理現象と言い聞かせる。
 走る。走る、走る。
 足も、腕も、胸も、身体の全てが引き千切れそうな程の痛みを伴った衝動だ。
 駆け抜けたこの先に、何があるのかも解からなかったけれど。
 本当は、何かを追っているのか、何かから逃げているのか、それすらも解からなかったけれど。

 ただ、走る。



走る Ich gehe zum Tod
banana




「大将?」
 焦点が合わない。掛けられた声に、言葉を返す事もせず半身を起こす事もせず、それでも取り敢えずは「聞こえている」という意思表示の為に左手を挙げてパタパタと振った。
 息が出来ない。肺の中身を吐き出すことは出来る。ただ、どれだけ吸い込んでも肝心の酸素が入ってこない。これはマズイかな、と思いうつ伏せになり何とか息を吸い込もうとするが無理だった。そうでなくても身体の方は普段から大分負担が掛かっている。体勢を変えるだけでも重労働だったというのに、それが徒労に終わったという事も手伝って、とうとう血生臭い床に再度身を沈めたところで、やっと無能な部下が異変に気付く。
「声、出ないんスか」
 返事はしない。あまり「苦しい」といった感覚はないのだが、身体機能の構造成分そのものは人とそう大差ない自分がこの状態で居続けるのはあまり歓迎すべき状況ではないな、と口元を押さえたまま、呻く様に喘ぐ。それが返事代わりだと判断したらしい少年は、血溜まりに片膝をついた。
「息、出来ないトカ?」
 顔を半分血に浸したまま、それでも辛うじて声の方向く。嘘の吐けない男の目だなあ、と部下を見上げながらそんな事を思う。思わず込み上げた笑いを隠すような真似はしない。半分死に掛けているというのに、全く以って正気の沙汰ではない、そんな事を思うと、いよいよ笑いが堪えきれなくなった。
 手袋を外した手が背中に添えられる。布越しにも判る、冷たい手だった。自分の体温が高いのでなく、冷たいのは少年の手の方だった。
「…大将」
「……ぃ……ぶだ」
 声が出た、と思ったら途端に呼吸も正常なものに戻った。口の中に広がる自分のものではない血の味に眩暈を覚えながら身体を起こす。
「どれくらい…ぶっ飛んでた?」
「10秒も経ってないッスよ」
 頭を振ると髪に付いた血が飛び散り、床に新しい小さな紙魚を幾つも作った。
「…どうしたんスか、喰った途端ぶっ倒れてましたケド」
「さあな」
 身体の芯から表面に掛けて、常に激痛に苛まれている。膚には既に幾つもの根が張っており、いつ萌芽しても可笑しくない状態だった。
 「動け」と思わなければこの身体はもう動かない。そして、そう思うこと、命じる事が苦痛になりつつあるのも事実だった。それを思うと、泣けてくる。自分は間に合わないかも知れない、そんな考えが首を擡げるからだ。そんな事を考えたくない。否定的な仮定に悩む暇があるのなら、もっと他にやらなくてはいけない事がある筈だった。
 ただ走り続ける事だけ出来れば、それはどんなに楽な事だろう、と思う。言う事を聞かない継ぎ接ぎだらけのこの身体に、命ずる事を放棄しつつある出来損ないのこの頭で、それでも命じるしかない。「動け」そして「走れ」と。
「…行くか。異形狩り共に見つかるのは事だ」
「ま、こんなトコでアンタに死なれても困りますからね」
 言いながら少年も立ち上がる。並んで立つと、視線より少し低いところにある少年の目が細められる。
「何もかも終わって、アンタ殺すのは俺なんスから」
 そう言って少年は在り得もしない、来る筈もない未来の話をして笑った。その滑稽さに言葉を失い、またつられるようにして自分も笑った。その在り得ない未来が本当の事になれば良い、そう思いながら笑った。

 もしも、もしももしももしももしも、そんな話を昔誰かとしていた。
 在り得ない未来の話をしていた。
 そしてその頃は、在り得ないその未来が約束された確かなものであるかのように、先へ続く道に輝いていた。





結局、主従がいちゃついてるだけの話(…)。

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