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04.29.00:57

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  • 04/29/00:57

08.10.01:50

cry ,fly , sky(女神編)

作中の猫柳(と蝙蝠)の話。
「sky ,fly ,cry」を知らなくてもOKだけど、知ってると色々と色々な感じにしてみた。
文章構成然り、反語然り。

楽しい…!




cry ,fly , sky――

声ノ無キ世界ト歪メル軋ミノ、空
或いは、
ゆるしの言葉につづく、その後に、その一瞬に、一瞬で凡てを無駄にしかねない罵倒を叫んだ
人の気も知らない、好き勝手なふるまいで、ものいいで
20070205banana

 

 昏い、鈍色の空が頭上を覆っている。遠目に眺めた塔は、まるで針のように頼りなく細い。踏み締めた土は水を含んで泥のように重かった。小雨の降る中だというのに周囲は焦げ臭い。
 何年前のことだったかは忘れた。その頃には既に両親とは暮らしていなかったから、四年か五年くらい前のことだと思う。大きな戦があった。大きい、と言ってもそれは隣国の、それも内乱だった。それこそ物価が上がったら生活が辛くなるだとか、停戦協定を結んだばかりなのだから矢張り難民の受け入れはするのだろうなだとか、そういったことを考えはしたが、それでも対岸の火事は薄皮一枚隔てた向こう側の惨劇でしかなく、現実味を欠いて数ある日々の出来事の一つとして埋没していた。恐らく滅多に自分のペースを崩すことがない師が、その記事に対して僅かばかり眉を顰めなければこうして記憶に残っていたかも怪しいほどの些細な出来事だった。
 かつての戦場に降る雨は、陰鬱さに拍車を掛けているようでもあった。焼け焦げ、腐り果てた家屋の骨組みが乱雑に重なるその合間に形を僅かに留めている白骨を幾つも見つけた。もう何も映すことのない昏い虚は、半分焼けた土に埋まっていた。

 今日は午後から雨が降るってさ、買出しを押し付けた張本人は出掛けの背中にそう言い渡した。振り返っても相変わらず視線は買って来たばかりの、「週間 青春の歌ベストセレクション」に注がれている。不本意な買出しに何時間掛かると思ってるんだこのナンチャッテ魔王、と罵倒は心の中に留めて、一応忠告を受け入れ折りたたみの傘を持って出掛けた。
 思い出したのは言い付けられた物を一通り買い揃え、さあホテルへ戻ろうとした時だった。メインストリートに設置された街頭大型ビジョンで今日が終戦記念日だということが特別枠で放送されていた。

 そして、手元に残っていた幾許かの釣銭で、地下鉄を二つ乗り継ぎ激戦地となった村の焼跡まで来た。

 地上に出て、未だ爆撃の跡が生々しく残る石畳を踏み締める頃には雨が降り出した。脇に寄って傘を広げていると、二人の女性がこれから向かおうとしている方から歩いて来た。共通した顔の造りと、年齢が離れているようだったので母娘なのだろうな、と思った。母親の肩を抱いた娘らしい女性が、こちらの投げ掛ける視線に気付きヘイゼルの髪を揺らして顔を上げる。当然のことながらそれは見知った誰の顔も連想しなかったが、それでも彼女は赤みの掛かった目元を和らげて会釈をして通り過ぎて行った。

 頼りない背中を見送りながら、立ち尽くす。

 そう年の変わらない彼女の、ほんの少しの表情の移り変わりに愕然とした。突然、目の前に転がった剥き出しの感情に、ただ脅え足が竦んだ。


 救いようもないほど、愚かだった。

 ああ。


 そうだろう、

 記憶が留める限り、罪は「消えない」。


 罪は在り続ける。


 償おうと、贖おうと、既に罪は行われている。

 罪は「消えない」のなら、罰はただの報いだ。


 罪という存在は「消えない」。


 漸く、罪深いという意味を理解した気がした。


 だから、解った。

 赦すという言葉、赦すという尊さ。


 だから、赦しは存在している。

 罪を、知っても。

 

 雨脚は強くなり、霧掛かった視界は悪くなる一方だ。雲は厚く、太陽は見えない。頭上は曇色で覆われ、周囲は彩度を欠いている。生き物が腐ったような黄色が、昏く辺りに立ち込めている。

 風はない。頼りない折りたたみの傘でも、雨から身を守るには充分だった。それでも、水を吸う土の深みに沈む足は、その冷たさに思わず指を縮こませた。焼け焦げた土はどれだけ水を含んでも、生命を育むことは出来ない。もう遠い昔に死んでしまったからだ。

 立ち込めた霧に視界は遮られ、少し先も鮮明に見通すことは叶わない。輪郭の曖昧な黒い大地と、焼け焦げて形を失い欠けた昔の名残とが、ただ昏く、それでもその存在を強く主張しているようでもあった。

 昏い、昏い、黒い視界に、ゆらりと溶けるような白が流れた。落ち抜けたような、塗り込められたような、溶ける空間の異質さだった。

 悲しみも苦しみも、こんなにも程遠い。
 潜在的幸福は自覚へと至り、罪悪と優越の境界は消える。
 濡れた肩、髪を、頬を伝い雫は滴り落ちる。
 曖昧な視界に浮かぶ白を眺めたまま、喉が渇いたな、と思った。

 のこされた罪悪の、唱。

 


 振り返った。
 水を含んだ浅い金色の髪は薄ら白く、感情を欠いた顔は陶器のようだった。弧を描いた上向きの睫毛に溜まった雨粒が、瞬くことによって頬に落ちる。雨が体中に染みて、急激に体温が奪われていく。それでも冬の湖のような、昏く澄み渡る燐灰石の双眸から目が離せないで居た。困惑も驚愕も混じらない、無感動な瞳だった。どちらも言葉はなく、雨の音だけが沈黙を遠ざけていた。

 高い位置へ伸ばしたままの腕が痛い。指先から少しずつ血が失われていくのが解った。遮るものを失くして、雨は容赦なく髪を濡らし、肩を濡らす。

 そして、頬に柔らかく手が触れた。

「……濡れてる」

 彼の視線と同じに、声からも感情を窺い知ることは出来なかった。ただ小さく囁かれた労わりの言葉は、よく知った誰かに似て低く掠れて優しく響いた。
 今更、傘を傾け掛けても長い間雨に打たれていたらしい彼からは、止め処なく水が滴っていた。

「誰か――亡くされたんですか?」

 何てことはない。搾り出した自分の声も随分と掠れたもので、酷く聴き取り辛かった。彼は感情の宿らない相変わらずの視線を外して、ほんの少し逡巡するように彷徨わせた。傘の柄を掴んだ指先が冷たく感覚を失くして行く。腕は痺れて、身体は傾けた傘を引き戻すことを望んでいる。彼は濡れ鼠で、頭は傾けた傘の無意味さを知っている。

「そう、ですね……多分」

 悲しい。
 彼の奇妙な台詞を聞いてそう理解した。

 悲しい。
 何か、悲しいことがあったのだと思う。

 

 そうして、俺は彼を捕らえて何を求めるのか。
 永遠でなくていい、何か、繋ぎとめるその理由を。

 浅い金色が雨に濡れて、氷れる湖のような緑が虚ろに濡れるなら、どうしてだろう。まるで溶かされるように、俺の心も揺れる。

 きしみ、きしみ、ゆがんで、よどんだ、まるで愛と錯覚するような勘違い甚だしい思い込みで腕を伸ばし続けながら、俺は目の前に居る人間は何だろう、と考える。

 どうして、今、こうして俺はこの男のことで頭が支配されているのだろう。どうして。どうして。
 でもきっと、その問いは答えを必要としていないのだろう。


 それなら。
 唐突に浮かんだ彼への無責任な願いも、本当だと言って良いだろうか。

 

そう、たとえばずっと一緒にいたいから、一緒に飛んであげる。

 

 

 イエスはかれらにいわれた。
 あなたがたが、二つのものを一つにするとき、内部を外部、上を下とするとき、あなたがたは王国に入るだろう。

                                                   (トマス福音書)

 

 

だから、赦しは存在している。

罪を、知っても。



「sky ,fly ,cry」もそーなんだけど、チョット横書き意識というか、ライトノベルを意識して書いてみたんだよなぁ……。
ほら、俺の文章って基本的に字がミッチリで読み難いから(笑)。
ただでさえ台詞少ないし……orz
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