04.28.22:15
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11.07.23:50
わらう子供とニンゲンになりたいカミサマのお話
予兆編で灰罹がキルスに話す予定だった童話モドキがモチーフ。
わらう子供とニンゲンになりたいカミサマのお話
昔々あるところに、ひとりの子供がいました。
周りはこわい顔をした大人ばかりで、子供はただひとりきりでした。
大人たちはいつも、子供がいないふりをしてむずかしい話ばかり。
子供には大人たちのしている話はわかりません。
だからといって、大人たちに子供にもわかる話をせがめば、大人たちは怒ってしまいます。
子供はほかにすることもないので、いつもニコニコとわらっておりました。
わらってさえいれば大人たちもこ子供を怒ることもありません。
かわいらしくお人形のようにわらっていればそれでよいのだと、大人たちは思っているのでした。
それでも子供はそれなりに それなりのしあわせな日々をおくっておりました。
ある日のことです。
子供はカミサマと出会いました。
ぱらぱらと小雨ガ降っていて、カミサマは濡れていました。
雨のせいだけではなく、赤い血でも濡れていました。
それはカミサマの血でした。
「ケガをしているんですか?」
子供は訊ねます。
「見て分からないかい」
カミサマはイジワルです。
「どうしてケガをしているんですか?」
子供が訊ねると
「カミサマは拳同士でしか語り合えない悲しい生き物だからだよ」
カミサマは言いました。
そうしてカミサマと子供は出会いました。
カミサマは乱暴で我侭でしたが、子供ときちんと話しをしてくれました。
カミサマは楽しいことや嬉しいことがあると、よくニコニコわらっていました。
「君は殊更によく笑っているね」
ある日カミサマが子供に言いました。
「カミサマもよくわらっているじゃないですか」
子供はカミサマに言いました。
「けれどわたしはカミサマだからほんとうはいらないんだよ」
「いらないのにわらうんですか」
こどもにはカミサマの言うことがよくわかりません。
「いらないものだからこそ、そこに何かを見つけだそうとわたしはわらうんだよ」
「それじゃあ、カミサマは『わらう』って、何だと思いますか」
「さあ、なんだろう」
カミサマはそう言って、こんどは少しこまったようにわらいました。
「カミサマでもわからないことがあるんですか」
こどもはカミサマにききました。
「そもそも『わらう』というのは、ニンゲンがニンゲンであるための証のようなものなのだとわたしは思うよ」
「はぐらかしましたね」
「はぐらかしたとも」
カミサマは言いました。
「それならおこるのもなくのもかなしくなるのも、ニンゲンがニンゲンであるためのあかしなんじゃないんですか」
「そうだね。そしてどれもわたしにはとってはいらないものだ」
らんぼうでわがままで、たのしいことやうれしいことがあるとわらうカミサマはそう言いました。
「なら『わらう』―…っていうのは、何だと思いますか」
こどもはまた、おなじことをききました。
カミサマはこんどは何も言ってくれません。
「『わらう』っていうのは、生き生きとした動きのあってほしいところに、機械における硬直ぶりを示されて生じる精神の痙攣なんです」
こどもは言いました。
「君はへんなこどもだね」
カミサマは言いました。
「どうせならじぶんの幸福のためにわらえばよいのに」
カミサマは言いました。
それから、しばらくしてカミサマが死にました。
こどもはお人形のようにわらってさえいればよいのだと、おとなたちがカミサマを殺してしまったのです。
「―そうして、子供はまた独りきりになってしまいましたとさ」
「キリの悪い終わり方っすね」
「おや、それは悪かったね」
「仕方ないだろ。まだ、めでたしめでたしってワケにはいかないんだしさ」
「それに第一、カミサマってそうカンタンに死んだりするものだと本気でお思い?」
「…ズルくないっすか、それ」
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