04.29.05:29
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11.08.00:18
暖かな汚泥の底で
これまた相当古い。
その壁に、扉は無く、ただ何者をも拒絶する。
暖かな汚泥の底で
手の下で、蠢く。それを、愛しいと思う。目を開けても、視界は暗い闇の中に落ち込んでいた。
「外」で大きな地鳴りがして、それから一拍おいて揺れる。天井に罅が入り、小さな飛礫が身体に当たる。あまり気にはしていなかったのだけれど、彼が面倒くさそうに、それでもその身をゆっくりと起き上がらせて庇ってくれた。それが嬉しかったので、僕は彼を撫でた。
ずっと開かないでいる扉がある。本当は、壁ばかりで扉なんてなかったのだけれど、二人で探すと案外簡単に見つける事が出来た。なのにその扉は決して開く事が無い。
僕らは二人、こっそりと花を咲かせて扉を隠す。そこに扉などなかったかのように、誰にも見つかることのないように、その扉が開けられることのないように――彼の姿が、誰の目に触れられる事のないように。
「僕、残酷ですか?」
返事は無い。
彼が、誰よりも愛されたいと思っているであろう事を知りながら、彼を誰の目にも触れさせず閉じ込め置く事は、きっと残酷、なのだろう。
それでも、いつでも内側からならば開けて出て行けるはずのこの生暖かい暗闇に、こうして僕と浸かっていてくれる間は、許されていると思って良いのかも知れない、と思った。
『-…優しいよ』
「あ、ソレは結構ズルイ答えですね」
地鳴りが収まり、辺りが静かになった。
立ち上がると、彼も身を起こす。
「大丈夫なんですか?僕、先に行って様子を見てきましょうか?」
訊くと頭を小突かれた。彼の手の感触だった。
「………」
「何だよ」
「扉、開いちゃったなぁ……って、思って」
言いながら、扉を押し開ける。振り向くと、調度彼がマフラーを巻き直しているところだった。蛍光灯の灯りが照りかえって色素の薄い彼の髪が銀色に見える。
「バッカだな、開けなきゃ先に行けないだろ」
言って、彼が笑う。
そんな最もらしい事を言って、それなら僕らが、一体何処に行けるというのだろう。
教えて下さい。
カミサマ。
カミサマ。
「-…貴方の言う先は、何処に在るんですか」
「それは」
明滅を繰り返す蛍光灯の下。無機質な一面の白い壁。
「ここじゃない何処か、って事で」
「考えなしだなぁ、もぉ…」
「いやいや、それでもヤッパリ何処行くんでも、お人形サンが隣にいてくれなくっちゃあね」
この時、僕は何となく解かった気がする。
「…残酷なのは僕じゃなくて、テレートス様の方だったんですね」
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