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  • 04/29/15:05

07.01.00:47

ラフ画

06.10.13:24

ととバム。

【フレッド】

「流石に美談ばかりじゃないけど、それでも僕らは僕らなりに上手くやってると思うね」

175cm
ガンナー/ヒーロー

 PT成立の中核を担った為、そのまま便宜上のリーダーを務めるヒューマンの少年。戦闘でも物理攻撃のダメージソースとして活躍している。
 さる高位貴族の次男。本名はフリードリッヒ。妾腹でありながら聡明で、跡継ぎ問題を避けるために家を出た。性格は温厚かつ常識的で、貴族におけるしきたりにも明るい。
 良くも悪くもノブレス・オブリージュを体現したかのような好青年で、目的のために自分の権力を有効利用することをいとわない面もある。アザフセを戦闘時の指揮官に据え命令系統を立ち上げる等、資質を見抜く才に秀でる。

【アクリス】

「どうも私、誤解されやすいタイプみたいなのよ。心外だわ」

166cm
錬金術師/予報士
 錬金術専攻のノームの少女で、エインセルの友人。錬金術師としてPTの金銭面を陰日向となって支える一方、戦闘でも細やかな立ち回りを見せる。
 神秘的な雰囲気を漂わせ、異国からの留学生だとか、さる国の高名な貴族の令嬢だ等という根も葉もない噂がたっている美少女。本人も多くを語らず、仲間もどうでもいいと思っている為謎は謎のまま。
 優雅で上品な佇まいに反し、行動的かつ好戦的でからかい癖のある愉快犯。フレッドやアザフセと気が合うが、「男女の関係」には程遠いとのこと。ギータやフォースでをよく玩具にして遊んでいる。

【エインセル】

「だいじょうぶ。いざとなったらあたしがいくらでも引っくり返しちゃうよ!」

140cm
賢者/予報士

 アクリスのルームメイトで、種族特有の「ヒューマン好き」が高じてフレッドに声を掛けたフェアリーの少女。開幕一番に敵を吹き飛ばすスピードスター。
 平民の娘。明るくまっすぐで、裏表のない性格。明朗で快活な性格で目立たないが、研究生として法学の勉強を続け、ゆくゆくはそうした職に就きたいという夢をもっている。
 惚れっぽいところがあり、当初は種族的な相性もありフレッドに、次に戦闘で何度も危機を救ってくれたアザフセに思いを寄せるようにる。最終的にはギータに好意を抱くようになったものの素直になれず、本人には一向に気付いて貰えない。

【ギータ】

「まだまだ俺はガキだからな。気の合う奴らとつるんで馬鹿やってたいんだよ」

191cm
竜騎士/侍
 相性の関係でなかなかPTメンバーに恵まれなかったところを、余りものの寄せ集め的な意味合いでスカウトされたバハムーンの青年。主に後衛を守る盾として立ち回る。
 貿易商の息子。バハムーンの例に洩れず粗野で高圧的な上、口が悪い。その一方で商才に秀で、学内外で学生やその人脈をたどって、様々な商売を広げている。
 人心の機微に聡く、私情を挟まない実利主義を貫く一方、行き過ぎた騎士道を貫くフレッドを案じたり、エインセルの夢を密かに後押ししたりと仲間思いでもある。アザフセに対しては挑発的な言動が目立つが、対等な友人として認めている。

【アザフセ】

「何でそうみんな無駄に順応性高いんだ。そんなんだから人見知りの俺にぼっちフラグが立つんだろ」

183cm
まにまに/予報士

 種族故に炙れてしまい、済し崩しに現PTに籍を置くことになった片角の折れたディアボロス。PT随一の主砲にして生命線。また、戦略・戦術指揮も担う。
 奨学生で聖職者志望。「悪魔の名前を唱えてはならない」という古い風習のある土地の出身で、字伏と名乗っている。ヒューマンの牧師夫妻に育てられた孤児で、自身もセレスティアの孤児を養女として引き取っている為、この歳で未婚の父。
 関心がないことには全く関わらないが、決心さえすれば行動力がありアグレッシブ。飄々としているが、裏表や他意のない性格。自覚はないが子煩悩で、娘と同じ種族であるフォースも息子感覚であしらっている。

【フォース】

「やだなぁ。俺の性格で羽まで黒かったら、狙い過ぎてて笑えないよ」

178cm
堕天使/セイント

 盗賊学科を専攻していた為に売れ残っていたセレスティア。PTの事実上リーダー。戦闘では遊撃手として立ち回り、斥候としてアザフセと二人だけで行動することもある。
 高位貴族の四男坊で、本名はゼニス。自由な立場を謳歌し放蕩生活に明け暮れていたが、金銭が尽きて実家に戻ったところを御用となり、無理矢理学園に入学させられた。
 女癖が悪く浪費癖のある享楽主義者。当初はノブレス・オブリージュを地で行くフレッドとは気が合わず、脱走現場を目撃されているアザフセに苦手意識を持っている。紆余曲折を経て誤解は解けたが、反動で明々後日の方向へ青春を謳歌し始めた。


この製品はホモではありませんが、普段この工場ではホモを含んだ製品を扱っております

【フレッド】
Ac:話もあうし、私は好きよ
Ei:やさしーしつよいしかっこいいよね
Gi:浮かれた理想主義とナルシシズムに酔って自分見失ってるようじゃな
Az:思い詰めるタイプだから心配はしてる
Fo:理解も共感も出来ないけど、オレなりに敬意は払ってるつもり

【アクリス】
Fr:色々言う人も居るけど本当は凄く優しいよ
Ei:大人っぽくていいなぁ羨ましい
Gi:コレの頭ん中はカオスだ
Az:俺は凄く頼りにしてるんだけどなー
Fo:こういうの同族嫌悪って言うんだろうね

【エインセル】
Fr:いい子だよ。最初に声をかけてくれたのも彼女だし
Ac:ちいさいのにおおきいのよね
Gi:何かとこうるせぇ羽虫だな
Az:色んな意味でこのパーティでは貴重な人材
Fo:扱い易さは評価出来るけどたまに予測出来ないからなぁ

【ギータ】
Fr:実は結構強かだよね……あ。ごめん
Ac:とても頭の良い人よ
Ei:デリカシーのない単細胞馬鹿!プライドばっか高い火蜥蜴
Az:いい奴だと思うよ面と向かって言うと怒るから言わないけど
Fo:何だかんだで一番気が合うんだけどたまに凄くムカつく

【アザフセ】
Fr:大概のことは何とかしてくれるんだよね怒らせると怖いけど
Ac:博識で面白い人だわでも実は凄く怖い人
Ei:一緒に居るだけで安心出来るけど怒らせちゃいけない人ナンバーワン
Gi:味方で居る分には心強いなせいぜい上手くやるさ
Fo:何かいっつも人のことばっか気にしててさ……可愛くない

【フォース】
Fr:間違いなくこのパーティで一番面倒くさい
Ac:一緒に居ると退屈しなくて済むわ
Ei:喋らなければいい男なんだけどなー
Gi:どうにも腹の底の見えねぇやつなんだが……最近解かり易いな
Az:うーん……結構可愛いとこもあるんだけどな誤解され易いタイプなのかも

04.08.13:18

デインヌーメン【DeinNumen】

デインヌーメン【DeinNumen】

 大型の魔物。
 食性は肉食に近い雑食性。また、後述する息吹嚢(ソクスイノウ)呼ばれる特殊な器官にティオを溜め込む性質を持つ。繁殖期や餌が少ないと雑食性となり、人里にまで降りて来て人間や家畜を襲ったりもする。
 胎生。卵食型に分類されるが、未受精卵だけでなく同じ子宮内の他の胎仔も捕食する卵食・共食い型。胎内で孵化し、機能歯が生え揃うと未受精卵や他の胎仔を食べる。妊娠期間は9~12ヶ月、産まれてくる子どもの大きさは約1m。
 気性が荒く、獰猛で攻撃的。まず人間に慣れることがないが、過去に一度討伐した母親の胎内から受精卵が発見され人の手によって育てられたという記録が残っている。生息域において生態ピラミッドの頂点に君臨する。
 身体のわりには機敏な動きと飛行能力を持ち、息吹嚢に溜め込んだガスを噴出することで強力なブレスを放つ。ブレスの性質は息吹嚢内のティオによって威力や属性が変化する為個体差が大きいが、何れも口内の毒腺から分泌される毒液と混ざることで強い毒性を帯びる。息吹嚢内に溜め込んだガスには限りがある為、再度充填される前の攻撃が有効。
 息吹嚢内のティオはデインヌーメンの体液と化合することで、ティオ本来の発光現象が失われる代わりに同固体由来のティオとの共鳴光を放つようになる。この性質を利用し、重要書類等の署名捺印に使われるインクに加工されることが多かったが、戦争による生息地の破壊・荒廃、乱獲などによって生息数は減少している他、インク加工技術を持つ職人の減少もあって今では殆ど見られない。
 肉は独特の臭みがあり美味しくないが、酒と塩に一晩漬け込み十数日間干したあとに三時間ほど湯掻き、二晩冷たい風に晒して凍らせ、翌朝氷を融かし水分を滴下させ、さらに数日間日乾した状態なら何とか食べれないこともない。だが、酷寒のために一晩で急激な凍結が起こると形質不良になり、温暖のために凍結に四~五晩かかると腐敗にかたむいて発色してしまう等一筋縄ではいかない上、そこまで苦労して食べたいような味でもないため、その栄養価が非常に高いことを知っている一部の人間を除く殆どが畑の肥料や家畜の餌にしてしまう。骨や角、牙、皮は普通に武具や装飾品に利用されている。
 人に気を許すことのない性質や希少性から、能力はあるが人付き合いを不得手とする者と好んで交友する人間への皮肉として「デインヌーメンを飼い慣らす」、珍しいが役に立たない物を「デインヌーメンの肉」と表現するなど、慣用句にも登場する。

03.04.09:03

ALFRED

 頭上には、幾つもの星が瞬いていた。辺りは暗かったが、夜ではなかった。夜ではなかったが、街は輝く夜の名を冠していた。人通りは少なくはなく、アルヴィンはその隙間を縫うようにして街の東へと急いだ。
 途中、髪を揺らす潮風に歩みを緩めたが、それも一瞬のことだった。海停で船を待つ、その時間すら惜しい。恐らく、アルヴィンの行動に彼らが気付くまでそう多く時を要することはないだろう。或いは、既に気が付いているかも知れない。腕の中の小さな重みを抱き直して、アルヴィンは一層東へと歩を速めた。
 最初は、行方と様子とを探るそれだけが目的だった。故郷から遠く離れたこの地において、叔父の命令は絶対だった。その叔父がアルヴィンに、ジルニトラに乗り合わせたエレンピオス人の集落から姿を消した同郷の医師の捜索を命じたのは変節風の吹く少し前のことだ。調べによると医師ーーディラック・マティスは「マクスウェル」による集落襲撃を経てアルヴィンの属するアルクノアから姿を消した後、リーゼ・マクシア南方の大国ラ・シュガルの首都でこの世界の医療技術を学んでいるのだということが知れた。そうして訪れたイル・ファンでアルヴィンは事前に調べていたディラックの住居へと向かい、そこで一人の女性に会った。長く黒い艶やかな髪の美しい彼女の名はエリン・マティスといい、ディラックの妻であることをつり上がり気味の目尻を微かに下げながら教えてくれた。それでアルヴィンは得心がいった。彼はこのリーゼ・マクシア人と出会い、故郷を捨てる覚悟を決めた。そういうことなのだろう。だからこそ、アルクノアの過激な活動と何より、故郷への未練を断ち切る為にディラックは姿を消した。そんなことは、十一の子供でしかないアルヴィンにも容易に察することが出来た。それだけに、取り繕うことも忘れてただ狼狽した。母のことを思い出したからだ。
「君、大丈夫?」
 リーゼ・マクシア人の女は、急に黙り込んだ不審な子供の顔を心底案じている様子で覗き込んできた。一瞬、仄かに漂う甘く懐かしいようなにおいに、胸を鷲掴みにされたような気がした。
「ごめんなさいね。せっかく訪ねて来てくれたのに、夫はまだ……あら?」
 アルヴィンの顔を覗き込んでいた女が、不意に顔を上げた。つられるようにして、アルヴィンも肩越しに彼女の視線を追った。そこで、目が合う。血の気の失せた男の眼孔は落ち窪み、それでも確かにそこには驚愕と憎悪とをない交ぜにした感情を浮かべて、強く、アルヴィンを睨み付けていた。集落において接点も面識も無いに等しいアルヴィンを、けれど彼は一目で目の前の子供が招かれざるかつての同胞であることを見抜いた。
「ここで、何をしている」
 低く、唸るような声で男は言った。落ち掛かったブラウンの髪の間から、憤怒を宿す眼差しでアルヴィンを射抜いてくる。ジルニトラに居た頃の遠目にも分かる存在の稀薄さは最早見る影もなかった。そこに居るのはただ、今の自分の生活と家族とを守ろうとする男だった。適う筈がない。アルヴィンは思った。
「ここで、何をしているのかと訊いている」
 言いながら、男の手が伸びてきた。アルヴィンは身体を強ばらせる。捕まるわけにはいかない。頭では解っていた。この男はきっとアルヴィンをラ・シュガル兵に引き渡す。そこからアルクノアやエレンピオスの存在が割れるとは思わなかったがそれでも、自分は帰らなくてはならなかった。だのに、身体は鉛のように重く、動かない。
 息をすることすら忘れて、アルヴィンは対峙した男の手を見つめていた。その背後で不意に、泣き声がした。弾かれるようにして、男は顔を上げる。同時に、アルヴィンもまた呪縛から解けたように感覚が戻った。その一瞬の内に、アルヴィンは伸ばされた男の手をかわし、脇をすり抜けて夜の街へと駆け出した。背中に、かつての自分の名前をまるで呪詛のように浴びせかけられながらそれでも、決して振り返ることなくアルヴィンは走り続けた。ただ、あの刹那に割り入った泣き声だけが酷く、耳の奥に残って消えなかった。赤ん坊の声だった。
 翌日、アルヴィンは再びディラック・マティスの家を訪ねた。遠目に、男が小走りで駆けていくのが見えた。急患が出たからだ。ベビーシッターはもう帰してしまったが、夜勤の妻は次の鐘が鳴る頃には帰ってくる。そんな甘えと油断があったのだろう。昨夜のアルヴィンの来訪を憲兵に通報した様子もなく、見くびられたものだな、と夜の街に男の背中が消えたことを見届けるとアルヴィンは口の端を吊り上げた。
 任務とは全く関係なかった。ディラック・マティスは確かにアルクノアを離反したが、彼は組織における重鎮でも、増してや叔父の望む地位にも何ら関わりのあるような人物ではなかった。ただ、叔父はアルクノアのリーダーの座を得る為、その情報を蓄える為、ジルニトラに乗っていたエレンピオス人の消息を離反者も含め把握することを望んだ。だから、アルヴィンの任務はディラックを確認し、また接触した昨夜の時点で終わっていた筈だった。だが、今、アルヴィンの足は確かにディラック・マティスの家へと向いていた。
 扉の前に立ち、呼び鈴を鳴らした。二度鳴らし、次にノックをした。返る声はない。次に、名前を呼んだ。返事はなかった。そこで初めて、アルヴィンはドアノブに手をかけた。当然、扉には鍵が掛かっていた。政府の主要施設でもないリーゼ・マクシア人の異形の力で「育てられた」家の扉に取り付けられた鍵は、随分と原始的な造りのものだ。壊すまでもなく、アルヴィンが今までに培った技能で解錠は容易であるように思えた。だが、アルヴィンは鍵には触れず家の裏手側に回った。来旬から火霊終節[サンドラ]に入るとはいえ、まだ暑い日が続いている。案の定、夜風にカーテンの揺れる窓を見つけた。二階だった。
 柵を踏み台にして窓に手を掛けると、そのまま腕の力だけでよじ登る。取っ掛かりをなくした足が無様に宙をさ迷って、何かを蹴り飛ばした。陶器の割れる音に鉢植えでも倒しただろうか、とアルヴィンは眉根を顰めるがそれ以上気に掛けている余裕はなかった。
 部屋の中に入ると、噎せるような甘いにおいがした。昨日、ディラックの妻から仄かに漂ったのと同じものだ。室内は暗く、窓から差し込む街灯樹の光が陰影を濃く浮き彫りにしていた。隣の部屋から、赤ん坊の泣き声が聞こえていた。
 湿地から吹き込む湿った風に揺れるカーテンが身体に纏わりつく。払いのけながら、アルヴィンは泣き声のする方へと歩を進めた。廊下に出て、隣の部屋に入る。空気が動いた為か、オルゴールメリーが微かに揺れた。その脇を過ぎて、アルヴィンは窓辺のベビーベッドに近付く。泣き声は、間違いなくそこから溢れていた。
 ぬいぐるみに埋もれるようにして、その赤ん坊は寝台に横たわっていた。生え始めの産毛は柔らかかったが、母親譲りの濃い色をしている。涙に濡れた榛色の瞳も、よく似ていた。リーゼ・マクシアの血を色濃く継いでいるのだろう。そこには、異境リーゼ・マクシアに迷い込んだ哀れなエレンピオス人の子供の悲壮さは、微塵も感じられなかった。ただ、覚悟を決めた父親と、愛情深い母親とに慈しまれる子供が、けれど何故か火が着いたような勢いで泣き続けている。その様子を、アルヴィンはただ眺め、見下ろしていた。あやすことも逃げることもせず、ただ、かつて確かに自分が持ち得、そして今無くした全てに包まれるその子供を、無心に、見下ろしていた。丸みを帯び、紅潮した頬を伝い落ち流れる涙を、吹き込む風に揺れる柔らかな産毛を、愛に包まれ赦された子供を、気が付けば柵に手を掛けて、身を乗り出し、見下ろしていた。榛の瞳が、覗き込むアルヴィンの影を捉えた。二度、三度と瞬く内に涙がこぼれることはなくなった。透き通る蜂蜜色の鏡に映る、自分の方が余程酷い顔をしているな、とアルヴィンは思った。
 不意に、赤ん坊は手を伸ばした。何かを掴むようにして、小さな手のひらが宙をさ迷う。何度も、何度も、目の前で弱々しく、辿々しく、赤ん坊の手のひらが翻った。アルヴィンは、少しだけ迷った。けれど、すぐにグローブを外すとさ迷う赤ん坊の手のひらに触れた。温かい、小さな小さな指がアルヴィンの手を強く握り込んだ。そして笑う。愛された赤ん坊が、アルヴィンに笑いかける。アルヴィンは、唇を強く噛み締めた。

02.16.00:18

悪癖

悪癖 The INCURABLE



 鼓膜に届く水音で目が覚めた。
 カーテンの隙間からは、水に煙る街並みが見える。陽は既に登った後だったが、雨のせいか灯りのない部屋の中は薄暗く沈んでいた。
 身震いを一つして、ジュードは手足を縮こまらせる。剥き出しの肩に触れる空気が冷たい。毛布と上掛けを纏めて引き上げると、頭まで被って視界を閉ざす。何故こんなに寒いのだったか、凍えながらジュードは思考を巡らせた。手は、無意識の内に閉ざされた空間をさ迷う。背を向けた壁際の隙間に、眠りに落ちる前には確かにあった筈の熱が触れない。思い至り、もう一度確かにジュードは目を開けて、上体を起こした。
 薄暗く沈んだ部屋の中、先ず最初に見留めたのは整然と本の並ぶ棚だった。中には学生時代から所有している医学書の他、エレンピオス文字の辞書や黒匣[ジン]に関する専門書、エレンピオスの研究者であるバランから貰った最新の源霊匣[オリジン]の学会で纏められた議事録の写しのファイル等が収まっている。隅の方の数冊が傾いているのは昨夜遅くに来客を迎え入れた為、その隙間に収まる筈の本を戻し忘れたからだ。
 欠伸をしながらジュードは寝台の下に脱ぎ散らかしたままの衣服を足でかき集めた。その中から自分のズボンを見付けて履くと立ち上がって、部屋履きの靴に足を押し込んだ。少し小さくなったその靴を、ジュードは踵を潰して履いている。新しいものを買おう買おうと思ってはいたが日々の忙しさとどうせ外には履いて行かないのだから、という惰性からそのままになっていた。雨音よりも濃い、室内から漂う水の気配がする方へ意識を傾けながら、せっかくの休みだし新しい靴を買いに出掛けるのもいいかも知れない、とジュードは思った。
 自分の物ではない物も含めて、足元に脱いだままの衣服を拾って回りながら洗面所へと向かう。ジュードが間借りしている部屋の中で、最も源霊匣の最先端の技術で溢れかえっている場所だ。決して広くはない仮部屋において、バランから贈られてくる「微精霊の源霊匣の試作品」の取り敢えずの置き場所が洗面所くらいしかなかったからだ。その大半は実用化には程遠いがらくた同然の物ばかりだったが、先節送られてきた自動で衣服を洗う源霊匣はジュードも気に入ってた。リーゼ・マクシアにも似たような機能を持つ物はあったが街灯樹とは異なり付きっきりで精霊に働き掛けないといけない仕組みなので、一度稼働すれば洗い終わるまで目を離していても良いこの源霊匣は実用化に向けて本格的に改良するべきだろうと思っている。問題はジュードもバランも、どちらかというと医療関係の補助機器として源霊匣の研究に着手していた為、ここからどう広げていけば良いのか分からない点だ。そう、ひとしきり舐めたり噛んだりして互いの熱を煽りあった後、気怠げに寝台にうつ伏せた客人の旋毛にそう愚痴を零したのは昨夜眠りに就く前のことで、彼はこの後カラハ・シャールで商談があるのでその時にでも協力者を募ってみる、と欠伸を噛み殺しすと裸の背を向けながら言った。
 抱えた衣類を試作機に放り込む背後で、外に漂う雨よりも一層濃い水の気配が止んだ。スイッチを押そうとしていた手を止めて洗面台に無造作に掛かったタオルにジュードが手を伸ばすのと、浴室のカーテンが引かれるのとは殆ど同時だった。頬に張り付く前髪を掻き上げる男にタオルを手渡す。
「わりぃ。起こしちまったか」
 身体を拭きながら男は問うた。
「ううん。寝過ぎたくらい」
 答えを返すジュードの脇をすり抜けるようにして濡れた腕が伸びるたかと思うと、男は試作機の中から昨夜脱ぎ散らかした自分の衣服だけを引っ張り出した。
「あれ。スカーフは?」
「流石にスカーフはちょっと……っていうか、洗うんだから戻してよ。服なら貸すから」
 いつか着れる日も来るかも知れない、と自身に言い聞かせながらサイズの合わない服を買い置きしていたジュードは、それとなく言葉を濁しながら男の動きを制止した。だが、彼は見つけだした自分の衣服をまだ乾ききらない身体に纏いながら言った。
「いや、明日の昼にはガンダラ要塞に着きたいからな。そろそろ行くわ」
「行く、って……ちょっと待ってよ。だって」
「言っただろ?カラハ・シャールで商談があるんだよ」
 戸惑いの声を上げている間に男はコートとスカーフ以外の、ジュードが昨夜脱がせた衣類を着込んでしまった。
「アルヴィン!」
脇をすり抜けてリビングへと戻ろうとする、その薄情な背中に声を投げる。だが、男の――アルヴィンの歩みを留め置くには至らない。一瞥すらくれずに彼は肩越しに手だけを振って、その背中を扉の奥へと消した。歯噛みして、ジュードはアルヴィンを追い掛ける。
「待ってよ」
 リビングを抜け、寝室に戻るとブーツを掃き終えたアルヴィンがコートに片腕を通したところだった。なに、と動きを止めることのない彼の声が返る。
「ワイバーンで来たなら、カラハ・シャールまで半日掛からないでしょ。何をそんなに急いでるの」
「あのなぁ……いくら何でも雨の中ワイバーンは飛ばさないでしょーよ」
 ワイバーンは置いてくよ。彼はそう言って、皺のよったスカーフを眉根を寄せながら伸ばし始めた。
「じゃあ、雨が止むまで待ってからでも……」
「おいおい。おたくまでバランみたいなこと言い出してくれるなよ。この雨、今旬いっぱいは降るんだぜ?んで、商談は来旬の頭」
 昨夜の名残はすっかり成りを潜めて彼はいつもの風体に戻ると、ジュードの頭を軽く小突いて笑った。
「ミラさまとの約束もいいが、もうちっと源霊匣以外のことも気にかけようぜ?」
「……何で、そこでミラの名前が出るの」
「さぁ?嫉妬かも」
 口の端を吊り上げて、アルヴィンは言う。嘘だ。喉元まで出掛かった言葉を押し止めたのは、彼の唇だった。下唇を小さく吸って離れていく軽い口付けに、ジュードは眉根を寄せる。
「ありゃ。ご不満?」
 喉を鳴らして笑いながら、アルヴィンは言った。
「また、そうやって……」
 言いかけて、けれど今度は自分の意志で紡ぐ筈の言葉をジュードは飲み下した。溜め息を吐いて、頭を振る。
「いいよ、分かった。でも、ごはんくらいは一緒に食べてくれるでしょ。すぐに作るから」
 問いながら、半分は諦めていた。理由は解らない。常の彼であれば妥協点を提案すれば首を縦に振る確信はあった。けれど、何故か、今日の彼は譲らないような、そんな予感が漠然とあった。それが彼のジュードに対する甘えであったのならどんなに良いか、とも思う。だが、そう都合良く簡単な男ではないことを、彼に対してただ盲目的に夢を見ていてはいけないのだということを、ジュードは身を以ってよく知っていた。思い知らされてきた。
 案の定、アルヴィンはジュードの提案に難色を示した。
「たまの休みだろ。朝飯なんてどうにでもなるし、ゆっくりしたら?」
 うっすらと笑みすら浮かべて、彼は言った。ジュードは首を横に振る。
「いいんだ。僕がやりたいだけなんだし。それに、食べてくれる人が居るのって、やっぱり嬉しいものなんだよ」
 これで駄目なら無様に縋ってまでアルヴィンを引き止めるのはやめよう、とジュードは思った。けれど、彼は肩を竦めて困ったように笑いながらそれでも、朝飯だけだからな、と言ってジュードの頭を掻き混ぜた。
 だから、解らなくなる。信じたくなる。騙されたくなる。期待、したくなってしまう。
「すぐ、作るから」
 絞り出すようにそれだけ呟いて、ジュードは彼に背を向けた。


 外に出ると、雨は霙に変わっていた。褪めた寒色の曇天から、頬を叩き付けるように降ってくる。もう一枚羽織ってこれば良かった、と剥き出しの手指を擦り合わせながらジュードは思った。
 薄ら白い視界に、鳶色の背を捉える。アルヴィン。名前を呼ぶと、男は緩慢な所作で肩越しの傾いた視線をジュードへと寄越した。
「別に見送りなんて要らないのに」
 器用に片方だけ、眉を持ち上げてアルヴィンは言った。
「違うよ。僕も外に用事があるからそのついで。……どれだけ自惚れてるのさ」
 追い付いて並び立つと、無防備な脇腹を肘で小突く。アルヴィンは笑いながら、されるがままになっていた。
 嘘は吐いていない。彼とは違う。外に用事があるのは本当で、買い置きの食料が心許ないのも真実だった。ただ、昼も夜もまた彼と二人で食事をして、その献立を二人で考えて、ジュードの新しい靴を二人で選ぶ――あった筈のささやかな希望の数々を言葉にせず飲み下した結果がこれだった。思いがけず零れた自嘲の笑みをどう受け取ったのか、何だよ、と言ってアルヴィンは嬉しそうに微笑む。内緒、とジュードも笑みを濃くしながら返して、アルヴィンの腋の下に指先を差し入れるようにして腕を組んだ。
「くすぐったいんですけど」
「だって寒いんだもん。手袋忘れちゃったし」
 白く吐く息の向こうに、アルヴィンを捉えてジュードは言った。けれど彼は立ち止まってジュードの手を丁寧に解いたあと、自分のはめていた手袋を抜き取って差し出してきた。
「……何でこう、デリカシーに欠けるかなぁ」
「そういうおたくはどんだけ乙女系なのよ」
「これから街を出るアルヴィンに、どれだけ鬼畜なのさ僕」
「わりとそんなもんだろ。ジュード君が俺に優しかったことなんて、ホント数えるくらいしかないしねぇ」
 いつまで経っても受け取ろうとしないジュードに痺れをきらしたのか、彼に手を掴まれて手袋を被せられた。手首に触れる冷たく乾いた彼の掌や、指先の随分と余る温もりの残った手袋の、その温度差に意図せず溜め息が零れる。
「三十路にもなって自分探ししてる駄目な大人に対して、寛大過ぎるくらい寛大だった覚えはあるけどね」
「まだ大台にゃ乗ってねぇよ」
「来節には乗るでしょ」
 アルヴィンが黙り込む。ジュードも、口を噤んだ。来旬の末日には節が変わる。脳裏に過ぎった事実が、続く筈のジュードの言葉を遮った。
「……何か、慌ただしいね。これじゃあセックスしに来ただけみたい」
 赤褐色の視線から逃れるようにして顔を背けながらジュードは言った。
「…………まぁ、結果論だな」
 常のジュードらしからぬ言動に面を食らったのか、少しの間を要してからアルヴィンが呟く。見上げた先には相変わらずの眠たそうな彼の顔があって、何だか無性に業腹だった。
「ねぇ、今、どんな気分?」
「優等生が不良になってんな。新鮮で可愛い」
「そうじゃなくて!」
 思わず、声を荒げると流石のアルヴィンも僅かだが目を見開いた。だが、それ以上に声を荒げたジュードが自分の声に驚いた。
「……そういうんじゃ、なくて」
 漸く弱々しい声をジュードが絞り出した頃には、アルヴィンもすっかり平静に戻っていた。水気を含んで重たくなった髪が一筋、眉の上に張り付いている。
「どうして、アルヴィンはいつもそうなんだろう。嘘吐いて誤魔化して……疲れない?」
 問いながら、手を伸ばして張り付いた彼の前髪を掬った。
「何だ。ジュード君、疲れちゃったの」
「僕じゃないよ」
「もう、おたくには嘘は吐いてねぇよ」
「僕じゃなくて」
 なすがままにされていたアルヴィンが、離れていくジュードの手を取った。唇に寄せて「何?」と続く言葉を促される。
「アルヴィン、どうしちゃったの?何かあったの?僕が、何かしてしまったの?」
 彼の指先を握り返して、ジュードは一息に言った。全ては不安からだった。
 昨夜のことを思い出す。日付の変わってすぐの夜更けに、アルヴィンは訪ねてきた。彼の来訪の予定はなかったが手紙に今度の休みの日について書いていたので、非常識な時間に鳴る呼び鈴を特に警戒することもなくジュードは扉を開けた。暗い廊下を背に立つ男は、最後に会ったときと変わらないように見えた。変わらず、少し疲れているようだった。その姿を見留めた後、言葉を交わしたかは覚えていない。腕を掴んで彼を部屋へと引き入れてしまうと、扉を閉めて唇を塞いだからだ。もしかすると、名前くらいは呼んだかも知れないし呼ばれたかも知れない。口付けながら彼が後ろ手に鍵を閉めるのが見えた。だからジュードはアルヴィンのベルトを外すことに集中することにした。縺れるように寝室に彼を導いて、そこで漸く唇を解放すると「俺、着いたばっかで喉渇いてんだけど」とアルヴィンは言った。この時、聞こえないふりをして寝台に突き飛ばしたのが悪かったのかも知れない。後で水差しを持ってくるから、と耳元で囁いておきながら忘れて寝入ってしまったことが原因かも知れない。それに、コンドームも付け忘れた。中に出してしまっても彼は何も言わなかったが、その所為で怒らせてしまったのかも知れない。
 心当たりだけが渦巻いて、不安で押し潰されそうだった。けれど、今回だけの話でなく、何も言わないアルヴィンのことはずっとジュードの気掛かりだった。もう嘘は言わないと彼は確かに言っていた。結果、嘘だけでなく彼は伝えるべき本当の言葉も噤み続けている。
 遮るもののなくなったアルヴィンの唇は緩やかな弧を描いている。微笑んでいる。そこへ、畳み掛けるようにしてジュードは言葉を連ねた。
「お願いだからアルヴィン。誤魔化さないで。そうして、いつも最後に傷つくのはアルヴィンじゃないか」
 泣きそうだった。けれど、男から漂う笑みの気配は濃くなる一方だった。天気が悪いお陰で人通りが少ないのは助かったな、と鼻を啜りながらジュードは思った。アルヴィンはいつかのようにジュードの言動を指摘するようなことはなく、ただ一つ、目蓋に唇を落としてきた。本当に、人通りが少なくて良かった。
 「アルヴィンは」堪えているのも馬鹿らしいので、感情のままに零してしまうことに決めた。「そうやって、僕のことも殺してしまうの?」
 問うて、彼の顔を見上げて伺い続けるのが辛くて、ジュードは俯く。そのまま、両手の平で顔を覆った。手袋に包まれた手は僅かだが、アルヴィンのにおいがした。濡れた雪の降り積もる音に、喉を鳴らす声が混ざる。
「そうだな。みんな死んだ」
 顔を覆う手に、彼の手が触れた。自分のものではない吐息が、前髪を揺らしている。自惚れてるな、クソガキ。吐息と共に耳の奥へと吹き込まれて、弾かれたように顔を上げたそこでアルヴィンに唇を奪われた。
 彼の悪癖は不治の病だ。きっとジュードも殺される。予言めいた確信に腹の底が重くなるのを感じながら、ジュードはアルヴィンの背中に手を回した。
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